(1992) ジョン・マルム・ジュニアと共同して立ち上げたNIN INCH NAILSのフロントマン、トレント・レズナーのプライベートレーベルをNothing Records設立を祝する一枚目。 EP扱いではあるのだが、実質NINのディスコグラフィーを代表するアルバム並みのインパクトを与えたマテリアル。 全体の印象はポップな前作と一変して、冷ややかなムードと激烈で猛攻一辺倒なメタリックなリフで高まる感情をぶつけた作風となっている。 NIN全体で根底のダークなテーマは一貫はしているのだが、この一枚だけで言えば攻撃的なノリは他のアルバムと対比し、別格のものとなっている。ジャケットはNINの他のジャケットではあまり見ることのない真っ赤な燃え盛る炎で覆われているが、何もかもを縦横無尽に焼け焦がすエネルギーはともかく、クールであれどホットなイメージはあまりない。 これ以降でメタル方面に大きく舵を振らなかったのはトレント彼自身が元々の多様な音楽性、パンクやプログレッシブロック、エレクトロニックなどのバンドがバックグラウンドにあったからであろう。 一応、インダストリアルメタルの範疇である曲は他のアルバムでないこともないし、過去に1993年と1996年にはグラミー賞のベスト・メタル・パフォーマーに選ばれてはいるが、このアルバム自体を除いて細かいことをうるさく言えば、彼自身はインダストリアルロックというアイコンが相応しい。 なお、カバー曲はAdam and the Antsの楽曲、Physical (You’re So) と当バンドのトレント・レズナーも参加のPigfaceの楽曲Suckとなっており、オリジナルに引けを取らないアレンジとなっている。またPVでコーラスとして参加しているデビュー前の若いマリリン・マンソンの姿も見ることができるGave Upも必見。 Best track:Wish、Last、Gave Up
〔1994〕 米国の重鎮インダストリアルメタルバンドの異色のデビュー作。 バタバタと回転する換気扇や工業音のような、無機質な打撃音とともに浮遊感あるタフでマッチョなヴォーカルが絡むという不思議な感覚が脳天を突き抜ける。 特筆すべきはスラッシュメタル直系の、他のインダストリアルメタルより特に目立つ硬く鈍重でガチガチの緊迫感のあるリフの嵐である。その波間に空間的な距離を感じるデジタルエフェクトやシンセを流しこみ、終末観ある強烈なディストピアSFが堪能できる。 彼らの重厚な世界観は、昨今のエレクトロニックコア寄りのヘヴィミュージックに少しチャラさや物足りなさを覚える人にも文句なしの濃い仕上がりであろう。 筆者が持っているのはボーナストラックがついているカナダ、オーストラリア版で、Fear factoryの作風とは若干異なる毛色のパンクっぽいバンドのカバー、ショートトラックが二曲ついている。 Best track:New Breed、Demanifacture [youtube]https://www.youtube.com/watch?v=7RJsRQOneMY[/youtube]
(2005) 日本産メロディックデスメタル三枚目。 RYOがメインヴォーカルを専任しているのはこれが最後、以降はヴォーカルが安定せず変遷してゆく時期を迎える。 前作から電子音導入、今作で頭角を現し、次作で名を上げることになる、言わばBSCの歴史の中間地点にある重要な作品。 ジャケットの印象が左右している部分もあるだろうが、ダークなディストピア感が強めで、澄んだ電子の海を心地よく突き抜けていく開放感は次作の方が強めで本作は若干滞り気味でさえある。 それはどこが模索していた部分もあったせいなのかもしれない。個人的にはこの程度のほんのり陰が刺す派手すぎない電子音とメタルのバランスがちょうどいい塩梅である。 Best tracks:TRUTH [youtube]https://www.youtube.com/watch?v=-gVvKI3ptCE[/youtube]
(1999) アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルス出身インダストリアルメタルバンドの1stアルバム。 まず、目を惹くのがみつあみにしたヒゲと逆さまに立てた昔のBuck-tickのような髪型のバンドのvoにしてリーダー、ウェイン・スタティックの強烈なヴィジュアルとキャラクターがこのバンドの魅力をかきたててるのは言うまでもない。 そして、コーイチ・フクダ氏という大阪出身の日本人が在籍していること。自分のやりたい音をやるために単身米国に渡ったそうで。 エビルディスコの自称に違わず、ダンサブルな鋭角リフのメタルが大半を占めている。ダークだが、アッパーかつハイテンションの激烈ビートで視聴者の休む隙間を与えない。 SEやエフェクトが添えられたエレクトロニックな部分がありつつも、その音楽性はNINよりロブ・ゾンビに近く、ロックよりもっとメタル寄り。 例外としてメタリックな要素が薄い一曲もあり、末尾のエレクトロニカ風のDecemberはライブ終盤のチルアウトに程よく効くのを思う想像に難くない。 同バンドは2010年にすでに解散しており、ウェイン・スタティックのソロを挟んだのち、二年後にウェインと別のメンバーによって一時的に再結成したが、上手くいかなかったようでわずか一年で瓦解。 ちなみにタイトルの元になっているウィスコンシン・デス・トリップとはミカエル・レジーによるノンフィクション作品のこと。 Best track: I’m With Stupid、Love Dump、December [youtube]https://www.youtube.com/watch?v=nqiVvOXotyw[/youtube]
(1994) 米国インダストリアルロックバンドの2ndアルバム。 時間が経つごとにどんどん激しくなる心臓の早鐘か銃撃のようなメタルパーカッションで始まりを告げる このアルバムはNINのインダストリアルロックバンドとしての米国での評価を位置付け、 トレント・レズナーを現在のオルタナティブロックを語るに外せない人物としてオーバーグラウンドへ引き上げた重要な作品となった。 硬いリズムとデジタル音はあるが、重さは他の作品に比べるとそれほどでもなく、NINの中ではPretty hate machineに次ぐ入りやすさがある。 とは言っても、BROKENというインダストリアルメタルのEPを通過した影響は残っており、シンプルな音で構成される激しいドラムが軽快なMarch Of The Pigs、攻撃的な叩きつけるようなノイズを繰り返されるI Do Not Want This、アグレッションが備わったナンバーも揃えられており、物足りなさは感じない。 さらに最後の締めのHurtは有終の美を飾るにふさわしいメランコリックなバラードで、トレントの懺悔と慟哭に満ちた味わい深い余韻を残す。 日本盤のボーナストラックはJOY DIVISIONの名曲Dead soulが収録されており、ゴシック的な暗さはやや弱めだが、現代的なオルタナティブロックとしての新鮮さが感じられ、こちらもオリジナルに負けないくらいのできに仕上がっている。NIN入門者にお勧め。 Best track:March Of The Pigs、Hurt [youtube]https://www.youtube.com/watch?v=PL72Tyxe1rc[/youtube]
〔1999〕 米インダストリアルメタル・ロックバンドの3枚目のフルアルバム。五年のブランクを空けての二枚組み。 Left、Rightに分けられた総時間2時間ぶんの映画並みのこの大作はかなりのボリュームがあり、 前作より不穏で重たく、アート感が増したが、メタルよりの曲は前作のEPよりは減少しており、根底に流れる音は繊細で美しくポップなので、不思議と聞き疲れはしない。 NINの中心人物トレント・レズナーはこのアルバム製作で壁にぶつかり、ひどい時間を食わされたらしく、 スランプ地獄を味わった故の苦しみ呻きが満遍なく書き連ねられており、苦労が垣間見える。 沈みこむような遅いリズムのメタルパーカッションや機械的な音響の「静」と激しいノイズの洪水の「動」の緩急のバランスが整っており、視界が開けたようなすっきりした明快さは与えてはくれないが、 不満を爆発させたシューゲイジングの爆発力はリスナーにカタルシスに導くであろう。 なおトレントはプロデューサーのリック・ルービンにそれまで毛嫌いしていたビートルズのホワイトアルバムを勧められ、状況を打開するためのひらめきと示唆を受けたとも供述している。 怒りと切望、孤独にまみれた渾身の一枚。 Best track:La Mer、We’re In This Together、Starfuckers, Inc. [youtube]https://www.youtube.com/watch?v=yzTk-djuH_A[/youtube]