新居昭乃-エデン

(2004)

寡作ながら何篇かのささやかな物語を我々に贈り届け続けてくれる新居昭乃の2004年のアルバム。
清涼感ある快く落ち着いたビートで導きを告げるこの作品は元々彼女に宿る音楽性、
センスオブワンダーとでもなぞらえられるすぐ近い未来を臨む「これからなにがあるんだろう?」という胸が躍る期待感や、不思議を追い求める幼くみずみずしい探求心、さらに退廃感と背筋がわななくひそやかな恐怖をともなう訓示を与える童話的な空気に満ちている。
全編にわたりスロウリーなテンポだが、低カロリーで健康的でボリュームをあまり感じさせることなく聴き疲れすることもないだろう。
個人的には日本におけるロリータウィスパーボイスの第一人者でパイオニアだと思うのだけれど、認知度は一層低くこの才能がアニメに一番マッチするとはいえ(本人の作家性もあるが)、活躍できる他の場が日本にそう多くないというのが惜しい。
と思ったら、ここ数年は台湾、フランスなど国内外でライブで活躍中らしくそんな心配は無用のようだ。ネット様様ですね。
過去の公式HPの日記でRadioheadのトム・ヨークが好きだと発言していたようで(彼女のほうがずっと先輩ですが)さもありなん。
Best track:虹色の惑星、夜気、パンジー
[youtube]https://www.youtube.com/watch?v=PFf3krlGzAA[/youtube]

Static-X-Wisconsin Death Trip

(1999)

アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルス出身インダストリアルメタルバンドの1stアルバム。
まず、目を惹くのがみつあみにしたヒゲと逆さまに立てた昔のBuck-tickのような髪型のバンドのvoにしてリーダー、ウェイン・スタティックの強烈なヴィジュアルとキャラクターがこのバンドの魅力をかきたててるのは言うまでもない。
そして、コーイチ・フクダ氏という大阪出身の日本人が在籍していること。自分のやりたい音をやるために単身米国に渡ったそうで。
エビルディスコの自称に違わず、ダンサブルな鋭角リフのメタルが大半を占めている。ダークだが、アッパーかつハイテンションの激烈ビートで視聴者の休む隙間を与えない。
SEやエフェクトが添えられたエレクトロニックな部分がありつつも、その音楽性はNINよりロブ・ゾンビに近く、ロックよりもっとメタル寄り。
例外としてメタリックな要素が薄い一曲もあり、末尾のエレクトロニカ風のDecemberはライブ終盤のチルアウトに程よく効くのを思う想像に難くない。
同バンドは2010年にすでに解散しており、ウェイン・スタティックのソロを挟んだのち、二年後にウェインと別のメンバーによって一時的に再結成したが、上手くいかなかったようでわずか一年で瓦解。
ちなみにタイトルの元になっているウィスコンシン・デス・トリップとはミカエル・レジーによるノンフィクション作品のこと。
Best track: I’m With Stupid、Love Dump、December
[youtube]https://www.youtube.com/watch?v=nqiVvOXotyw[/youtube]

ASIAN KUNG-FU GENERATION-ソルファ

(2004)

おそらく彼らの名を世に知らしめた2000年代の日本のロックを語るは欠かせないASIAN KUNG-FU GENERATIONの2ndアルバムであり、マスターピース。
あの名曲リライトから、君の街まで、ループ & ループなどが収録されており、全12曲すべてが耳馴染む。
曲間に間断があまりなく、小気味良い勢いでスムーズよく乗っていくような軽快なノリで進行していく。
導入こそ早い曲で始まり一番性急でアップビートなリライトをくわえても、そこに強引な印象は見られずその後はテンポは一様にゆったりしたナンバーが多い。
リライトが彼らの曲の中で特殊なだけで際立って見えるが、本分はきっとスローリー、ミドルテンポな曲目なのだろう。
歌詞においてはコミュニケーション、中継、継続、繋がること、「続ける」ことの困難さが語られる。
Best tracks:リライト、ループ&ループ
[youtube]https://www.youtube.com/watch?v=Aq6gMHBobcA&feature=kp[/youtube]

Nine Inch Nails – The Downward Spiral

(1994)

米国インダストリアルロックバンドの2ndアルバム。
時間が経つごとにどんどん激しくなる心臓の早鐘か銃撃のようなメタルパーカッションで始まりを告げる
このアルバムはNINのインダストリアルロックバンドとしての米国での評価を位置付け、
トレント・レズナーを現在のオルタナティブロックを語るに外せない人物としてオーバーグラウンドへ引き上げた重要な作品となった。
硬いリズムとデジタル音はあるが、重さは他の作品に比べるとそれほどでもなく、NINの中ではPretty hate machineに次ぐ入りやすさがある。
とは言っても、BROKENというインダストリアルメタルのEPを通過した影響は残っており、シンプルな音で構成される激しいドラムが軽快なMarch Of The Pigs、攻撃的な叩きつけるようなノイズを繰り返されるI Do Not Want This、アグレッションが備わったナンバーも揃えられており、物足りなさは感じない。
さらに最後の締めのHurtは有終の美を飾るにふさわしいメランコリックなバラードで、トレントの懺悔と慟哭に満ちた味わい深い余韻を残す。
日本盤のボーナストラックはJOY DIVISIONの名曲Dead soulが収録されており、ゴシック的な暗さはやや弱めだが、現代的なオルタナティブロックとしての新鮮さが感じられ、こちらもオリジナルに負けないくらいのできに仕上がっている。NIN入門者にお勧め。
Best track:March Of The Pigs、Hurt
[youtube]https://www.youtube.com/watch?v=PL72Tyxe1rc[/youtube]

Nine Inch Nails – FRAGILE

〔1999〕

米インダストリアルメタル・ロックバンドの3枚目のフルアルバム。五年のブランクを空けての二枚組み。
Left、Rightに分けられた総時間2時間ぶんの映画並みのこの大作はかなりのボリュームがあり、
前作より不穏で重たく、アート感が増したが、メタルよりの曲は前作のEPよりは減少しており、根底に流れる音は繊細で美しくポップなので、不思議と聞き疲れはしない。
NINの中心人物トレント・レズナーはこのアルバム製作で壁にぶつかり、ひどい時間を食わされたらしく、
スランプ地獄を味わった故の苦しみ呻きが満遍なく書き連ねられており、苦労が垣間見える。
沈みこむような遅いリズムのメタルパーカッションや機械的な音響の「静」と激しいノイズの洪水の「動」の緩急のバランスが整っており、視界が開けたようなすっきりした明快さは与えてはくれないが、
不満を爆発させたシューゲイジングの爆発力はリスナーにカタルシスに導くであろう。
なおトレントはプロデューサーのリック・ルービンにそれまで毛嫌いしていたビートルズのホワイトアルバムを勧められ、状況を打開するためのひらめきと示唆を受けたとも供述している。
怒りと切望、孤独にまみれた渾身の一枚。
Best track:La Mer、We’re In This Together、Starfuckers, Inc.
[youtube]https://www.youtube.com/watch?v=yzTk-djuH_A[/youtube]

Sigur ros – takk

(2005)

アイスランド・レイキャビク出身のポストロック、エレクトロニカ分野で有名なシガーロスの4枚目のアルバム。
多くの人にとって愛おしまれるよう丹精に編まれた、水辺をゆっくりと静かにたゆたい心地よく胸に沁みこむ目映いばかりのこんじきのサウンド。
以前はつかず離れずの位置から笑みとまなざしを湛える、やや引っ込みがちでおぼろげな寂しさを抱えた
上品でぼんやりとしたにぶい輝きだったが、その博愛精神はそのままにしつつポジティブな陽のオーラをより積極的に放つようになった。
だが変に気取ったさまもなく、けばけばしくもないのがシガーロスの長所。
ふと思いがけなく耳に流れてくれば、初めて聞く方にとってもささやかでちょっぴりうれしい贈り物になるでしょう。
3曲目の詩にもあるとおり、泥だらけになり頽れた貴方を立ち上がるのをずっと見守り、待ち続けている。そして貴方の大事な記憶の宝物になれば─
まるで彼らの作る音色にはいつもそんな小さな祈りが込められているようだ。
Best track:Hoppípolla、Sæglópur、Glósóli
[youtube]https://www.youtube.com/watch?v=84i7zQ_ACnU[/youtube]

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